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ロシアの企業は競争力があるのか?

 

 外国とロシアの専門家の中では、ロシアにおいては革新的活動の水準は極めて低く、ロシアの企業は概して非効率的であり、そして、近年におけるロシアの経済的成長と住民の生活水準向上は石油の高価格に基礎を置いているという確固とした認識が存在する。したがって、ロシアにとっては石油ブームの完遂によって経済的繁栄が終わることになる。
 この悲観的な視点は、一見したところでは、世界銀行の専門家による最近の概算によって裏づけされている。(注1) この概算によれば2004年におけるロシア加工業における労働生産性はおおよそ南アフリカの3倍、ポーランドの2倍、ブラジルの1,5倍ほど低く、中国の水準をほんのわずかだけ上回っている。その際、国立高等経済大学院で行われたデータベースによる概算が示しているように、この平均数値は一般的な平均に思える。しかし、同一分野で活動している企業間では、付加価値に関する労働生産性のレベルで非常に大きい格差がその数値には隠されている。例えば、輸送機器製作では上位20%と下位20%の企業間におけるこのような格差が11倍、軽工業では16倍、木材加工業と食品工業では24倍に達している。(注2)
 実質的にこれは、同一分野においてでさえ全く異なる経済行動をする企業の活動が我々には存在することを意味する。一人の労働者が月当たり2000ルーブルの付加価値を創造する企業の一部は、経済的な意味では、すでにだいぶ前になくなる必要があった。しかしながら、さまざまな理由で、この種の企業は自らの「死後の生活」を続けている。他の部分は、逆に、今日すでに国際レベルで十分に競争力を持っている。分野ごとの状況の違いがあるにもかかわらず、このような企業はそれぞれの分野に存在する。

 このようなデータは2007年の初めに発表され、国立高等経済大学院の報告発表の一つで、ロシアKPMGのビジネス発展部門主任、セルゲイ・セメンツェフ氏は国立高等経済大学院の結論は彼の会社の企業内統計と合致すると指摘した。この発表は私に興味を持たせ、そして、我々は、昨年のロシアKPMGに依頼した顧客リストの動向と構造に関するデータを検討する特別セミナーを国立高等経済大学院で行うことに合意した。この審議の総括に関して、セメンツェフ氏とKPMGの同僚によって、論文が準備され、その論文は近々、ロシアの雑誌「経済の諸問題」に掲載される。
 

 KPMGのデータで何が示されるのであろうか?私の考えでは、このデータの分析は3つの主要な傾向に分けることがでる。


ロシアKPMGのサービスに対する需要動向における転換点としての2005年。

 2004年にKPMGのサービス量が12%伸びたのに対し、2005年は33%、2006年は42%、2007年は54%伸びた。この指標はドル表示で行われ、そのため、ロシアのGDP成長率に対比して、ここでは、これらの年におけるルーブルレートが実質的に強くなったことに対し修正を行わなければならない。しかしながら、このような場合でさえもロシアKPMGの成長率は経済の平均成長率よりもかなり高いことが判明した。
 KPMGの顧客は、かれらは確実に、競争力のある企業であり (注3)、具体的な顧客企業側からは、KPMGのサービスの需要の伸びはこれらの企業の活動規模の成長と相応する。上述のような基本的前提に立脚すると、セメンツェフ氏と彼の同僚は「ロシア経済の競争力のある分野の成長速度は明らかであり、我々の評価では、全体的な経済の成長速度よりも1.5-2倍速い。その際、ロシアの競争力のある分野はその他のBRICs諸国の競争力のある分野より、少なくとも遅れをとらず、成長した。例えば、ロシアKPMGの成長速度は、世界におけるすべてのKPMGの実績の中で最も高く、中国、インド、ブラジルよりも高い。」と、認めている。


 非原材料分野と地方への明らかな需要の移動。

 セメンツェフ氏は、2001年ではKPMGのサービス全体の顧客リストにおける石油ガス部門の企業の割合は50%を超えていたと、指摘している。その時から、この部門へのサービス量は定期的に伸びた。2006年は23%、2007年は13%であった。しかし、結果として、2007年の企業に対する全体的なサービスの顧客リストではこの分野の割合が18%まで低下した。それは、その他の部門がかなり速く成長しているからである。これは、第一に、建設、金融部門、小売業、電力、電話部門である。このデータは経済構造の実質的な多様化を証明している。
 経済の分野構造の変化と並んで、地方における競争力のある企業の急激な発展は同様に重要である。セメンツェフ氏は1990年代初めにロシアにKPMGが進出したとき、モスクワの他に、実質的にすぐにサンクト・ペテルブルクとニージニ・ノボゴロドにオフィスを開いた。しかし、ビジネスはモスクワに集中しており、ここから仕事をするほうが地方から行うよりも効率的であることがすぐに明らかになった。2004年-2005年において状況は急激に変わった。KPMGはより多くの顧客企業が地方から訪れるようになる事態にぶつかった。そのため、最初にエカテリンブルグ(セメンツェフ氏の評価では、エカテリンブルグは競争力のある企業の成長速度に関して首位のままである)にオフィスを開いて、次に、事実上、再びニージニ・ノボゴロドに開き、その後、ノボシビリスクとロストフに開いた。全体として、ここ2年で新しい地域のオフィスの成長速度はロシアKPMGの全体的な成長速度のおおよそ1.5倍を越えている。


予想を上回るビジネスコンサルティングの需要の伸び(会計に対して)。

 「四大」会計事務所は伝統的に会計監査を基礎としている。金融市場に加わっている、または、そこに入ることを計画している企業がまず、彼らの会計監査サービスの需要を呼び起こす。そのような会社の決算報告書監査は規制を行う機関や金融取引所の側からの要求である。逆に、いかなる規制機関も企業がビジネスコンサルティングに関する「四台会計事務所」のサービスを購入することを要求していない。コンサルティングサービスからの効果が、企業がこのサービスに対して支払う価格よりも高いと、消費者が確信しているときのみにこれは起きる。
 例えば、2005年までのKPMGの会計監査サービス以外の成長速度は会計監査サービスの成長速度よりもかなり低かった。ロシア市場はさらに長い間、高いコンサルタントを利用する準備はできないし、市場はそれほど国際的慣習に興味は持っていないであろう、などという意見さえ企業内では述べられていた。しかし、2005年から会計監査以外のサービスの成長速度は、おおよそ、会計監査の成長速度より1.5倍高かく、企業の全取引高におけるそれらの割合は2005年の3分の1以下から2007年のほぼ半分まで伸びた。
 これらすべては、2000年代半ばから、輸出の超過収入は非原材料部門や資源の無い地域における需要を生み始めただけでなく、企業発展に対して予想を上回るテンポで投資を行うようになった、特に、主要国際コンサルティング会社を仲介した新しい知識や専門性の獲得を通して行うようになった、結論することが可能である。
 

 このように、全体としてKPMGの2004年-2007年の期間のデータも、2004年の国立高等経済大学院の調査データも同様に、ロシアにおける複雑なステレオタイプにもかかわらず、効率の高い企業が存在すること示している。今日、すでにその数は1の位や10の位ではなく、100の位で数えられている。経済におけるこのような企業の比重の拡大が(KPMGのデータによれば、すでに活発におきている)中期的な展望で国の高い経済発展の速度の基盤となるであろう。

 

(注1)参照:Raj M. Desai and Itzhak Goldberg (editors). Enhancing Russia's Competitiveness and Innovative Capacity. World Bank, 2007, p.17-22.

(注2)参照:国立高等経済大学院の報告「分岐点におけるロシア産業:我々の企業が国際競争力を持つ企業となるのに何が妨げているのか?」//経済の諸問題2007年 №3

(注3)この承認については、一般的に言えば、論争の余地がある。巨大企業Enronや2008年9月に倒産したアメリカの銀行Lehman Brothersは同様に主要国際会計監査会社の顧客であった。しかしながら、一般的に、「四大」会計事務所のサービスを依頼する、そして、このサービスに対する需要を拡大している企業は、実質的に、より成功した効率的である。



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第3回 21世紀の発展制度か、それとも過ぎ去った20世紀の産業政策か?

第2回 ロシアの企業は競争力があるのか?

第1回 ロシアの汚職-ビジネス側の視点


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アンドレイ・ヤコブレフ

 

経済学者。モスクワ大学の経済学部で市場経済研究の責任者を務める。1992年、ロモノソフ大学で経済学と統計学で博士号を取得。日本では一橋大学、京都大学の主催するワークショップ会議に多数参加。専攻は、ロシアのコーポレートガバナンス、産業政策と国営企業関係の比較研究。ロシア政府の経済コンサルタントとしても従事。2005~2007年、ロシア製造工業における投資評価と競争力における、世界銀行との共同プロジェクトについて、ロシアチームのリーダーを務める。ロシアマネジメントジャーナル及びHSE 経済ジャーナルの編集委員。2006年以降、ヨーロッパ協会における比較経済研究の重役委員を兼務。Europe-Asia Studies, Post-Communist Economiesなど多くの国際ジャーナルに寄稿。

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