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21世紀の発展制度か、それとも過ぎ去った20世紀の産業政策か?

 

2008年6月、ロシアのマスメディアは、ロシア連邦大統領・ドミトリー・メドヴェージェフが「ロステフノロギヤ」(http://www.rostechnologii.ru/about.shtml )の高技術工業製品の開発、製造、輸出の支援に関する国営企業の資産形成に関する政令に署名したことを伝えた。国営企業資産の構成に、株式会社に改編されなければならない180の連邦国営単一企業、そのうえ、国が所有しているさらに246の企業の株式が移管される。このおおよそ80%が防衛産業複合体の企業であるが、これらの中には、大手ロシア自動車コンツェルン、アフトワズ(AVAZ)やカマズ(KMAZ)、またはロシアで第2位の航空輸送企業「AirUnion」といった、一般市民に使われている製品やサービスを供給する大手メーカーが存在する。同時に、マスメディアは冶金工業やその他の分野への参入拡大に関する国営企業「ロステフノロギヤ」の計画について報道した。専門家の評価によれば、国営企業「ロステフノロギヤ」の全資産の移管までの段階で、国営企業に加わる企業の年間取引高は2008-2009年で150-170億ドルとなるはずだった。そして、9月にアナトリー・チュバイスがレオニード・メラメドに代わり、「ロスナノテフノロギヤ」の理事長に任命された。この情報は、ロシアの現代経済政策で国営企業はどのような役割を演ずるのか、という問題を提起するのに良い理由となる。

 

しかし始めは、ロシアにとって新しいこの経済制度の法的地位の特異性を説明する必要がある。国営企業-これは、社会的、行政的、またはその他の社会的に有用な機能の実現のために財産支払にもとづきロシア連邦によって創設された非営利企業の特別な法的形態である。各々の国営企業は、それらの活動を規定しているそれぞれの法律によって創設された。その際、国営企業は予算法典の影響、国家買付けの手続きを規定する規則、同様に、倒産法の影響を受けない。国営企業の指導部の任命とその監督委員会の人員承認の権利はロシア大統領か首相が有する。

 

本来、このような組織法形態は、銀行業界における1998年の金融危機の後遺症を克服する目的で創設された金融機関再編庁のために検討された。この課題を解決したあと、金融機関再編庁は2003年に預金保険機構に再編された。2006-2007年においてその他の国営企業を創設する必要性は、現行の国家制度が、インフラの発展、イノベーションへの刺激を保障することができないこと、ロシアのビジネス自身がまだこのような計画に資金を投資する準備ができていないこと、によって裏付けられている。

 

全体として、投資基金と経済特区の形成と並んで、国営企業の創設は積極的な産業政策への転換の結果の一つである。転換はカシヤノフ内閣の総辞職後、フラトコフが首相に任命された2004年に起こった。しかしながら、国営企業は現在まで、専門家集団でも、政府自身でも討論の対象のままであった。特に、ロシアのマスメディアの報道によれば、連邦国営単一企業と国家所有の株式を国営企業「ロステフノロギヤ」の資産構成へ移管することについて言及された決定は経済発展省、産業・貿易省、財務省の側からの真剣な異議申し立てを呼び起こした。

 

なぜ、国営企業は新産業政策で最も議論の余地を含む制度の一つとなったのだろうか?国営企業の重要な問題の中で、専門家はその不透明性と実質的な報告義務の無さを指摘している。それらは、国営企業への莫大な国家資産と巨大な金融資源の移管が組み合わさることによっておこる。これは非効率的に運用する危険性を、さらに国家資金着服の危険性を生む。この関連で「エクスペルト」誌は産業コングロマリット、チェボルとの類似性を提起している。チェボルはある段階では韓国の経済成長を刺激したが、その後1997年の危機のときには倒産の瀬戸際であった。

 

国営企業に国家官庁の多くの機能が譲渡されており、多くの場合、政府と平行して、管理システムとして機能し始める。有名なロシア人エコノミスト、ヤコブ・パッペ氏によれば、国営企業、これは一種の「経済的オプリーチナ(直轄地)」(イワン雷帝のオプリーチナ(直轄地)と類似して)である。このように、この新しい制度創設を認可している国家代表の側からみて、国営企業は、現行の国家機関に対する不信感の現われである。

 

その他の国営企業に対するクレームの中では、私有化のカモフラージュに対する非難(国営企業に譲渡された資産が、連邦予算に適切な歳入をもたらすことなく販売される可能性があるとき)、私有部門の発展抑制を創造することに対する非難(魅力的な私企業の買占め、有能な人材が埋もれること、など)。

 

このような非難の嵐の下、国営企業の活動において、何らかの肯定的な側面があるのだろうか?全体的に、預金保険機構(十分見事に自分の機能を果たしている)を除き、残りの国営企業では、彼らの活動結果を評価するには、まだ非常に短い時間である。しかし、国営企業「ロステフノロギヤ」の際には、その直接的な前身である連邦単一企業「ロスオボロンエクスポルト」の活動を評価することができる。2001年から2004年の期間での武器輸出の顕著な成長(年間30億から55億ドルに)と、さらに、アフトワズの再編過程の開始は、特にこの連邦単一企業の首脳部の功績に関係している。その結果、2008年2月、ルノー社は戦略的パートナーとして行動することに同意し、アフトワズの凍結株を10億ドルで購入した。

 

経済学者の中では経済過程への国家介入に対する懐疑的な態度が支配しているが、いくつもの国々の現代史には類似した制度が肯定的な役割を果たしたことは、同様に、指摘する必要がある。例えば、国家持株会社TEMASEK (www.temasekholdings.com.sg)はここ20年間でシンガポールの経済発展を積極的に支援した。その際、Ang 教授とDing 教授(注1)の非常に詳細な調査が示しているように、TEMASEKのメンバーに入っている企業は、対比することが可能なシンガポールの私企業よりも、効率性に関して非常に高い指標を示した。他の例では、1980年代に独創的な発展制度の全ネットワークが形成されたチリである。そこには、「Fundacion Chile」(www.fundacionchile.cl )、国営企業CORFO(www.corfo.cl )、その他が含まれる。チリの専門家によれば、まさにチリにおけるこの発展制度システムのおかげで、同時期におきた非資源輸出の顕著な拡大(例えば、チリの全輸出高における銅の割合が1980年代における70%から2000年代の40%に低下した)のもと、ここ20年において5%のGDP平均成長率を確保することに成功した。

 

ロシアの国営企業がこのような試みを再現できるだろうか?これは時間が証明するであろう。今のところ、肯定的なシグナルとして、私企業部門から成功したマネージャーが(国営企業「ロスナノテフノロギヤ」のアナトリー・チュバイス)、そして政府から有名な改革者が(国営企業「ロスアトム」のセルゲイ・キリエンコ、開発銀行-対外開発銀行のセルゲイ・ワシリエフ)国営企業へ移ることを見ることができる。その他の国々の経験が証明しているように、このような指導者たちの個人的名声は新制度の不透明性によって生まれるリスクを相殺することができる。

 


(注1)Ang, James S. and David K. Ding (2006), Government ownership and the performance of government-linked companies: The case of Singapore // Journal of Multinational Financial Management, 16 (1), pp. 64-88.

 

バックナンバー

第4回 ロシアの法組織はどのように機能しているか?

第3回 21世紀の発展制度か、それとも過ぎ去った20世紀の産業政策か?

第2回 ロシアの企業は競争力があるのか?

第1回 ロシアの汚職-ビジネス側の視点


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アンドレイ・ヤコブレフ

 

経済学者。モスクワ大学の経済学部で市場経済研究の責任者を務める。1992年、ロモノソフ大学で経済学と統計学で博士号を取得。日本では一橋大学、京都大学の主催するワークショップ会議に多数参加。専攻は、ロシアのコーポレートガバナンス、産業政策と国営企業関係の比較研究。ロシア政府の経済コンサルタントとしても従事。2005~2007年、ロシア製造工業における投資評価と競争力における、世界銀行との共同プロジェクトについて、ロシアチームのリーダーを務める。ロシアマネジメントジャーナル及びHSE 経済ジャーナルの編集委員。2006年以降、ヨーロッパ協会における比較経済研究の重役委員を兼務。Europe-Asia Studies, Post-Communist Economiesなど多くの国際ジャーナルに寄稿。

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