FeatureBizRussia

ロシアの法組織はどのように機能しているか?

 

所有権の保護の弱さは伝統的に移行期経済の問題の一つと見られている。その場合、迅速で公平な経済的訴訟の解決は、所有権保護の有効性に関し一つの大きな証となっている。その意味でロシアは長い間、移行期経済国家の中でも悪い例として見られていた。企業は法を遵守せず、投資家は法の保護を受けられず、やっとの事で法廷から下された判決は単に実行されなかった。
その関係で法廷組織や法体系の強化が、近年ロシア連邦政府の優先課題として挙げられていた。法廷組織への予算拡大し、地域・地方政府からのさらに強い独立性を保障し、判決実行の更なる有効なメカニズムを創設する実際の行動が取られた。

 

政府の法廷組織改革の努力は何をもたらしたか? 企業はどれほど自分の権利や権益を守る為に法廷を利用しているか? 私達は、コロンビア大学ティモシィー・フライ教授(Timothy Frye, Columbia University, USA)が2000年に行ったアンケート調査と高等経済国立大学が行った企業研究の2つの大きな結果を参考にしながら、この質問に答えようと思う。両方のアンケートではロシア欧州地域の8つの地方で経営を行う(農業と社会福祉業を除く)全ての分野の企業500社が参加した。
既に2000年度のアンケートでも、仲裁裁判所が他の私営企業との訴訟の際には企業の権利を保護してくれるという企業経営者の深い信頼が見られた。しかしアンケートの回答者は、国家を相手にした場合には自分の法的利益を守ることはできないと確信していた。その場合、自己の所有権保護の可能性を疑っている企業は、他の回答者と比べ、ビジネス発展の為の投資を行うことは大変消極的であった。2000年度アンケートの他の結果では、仲介裁判所が満足いく職務を遂行しているのを受けて、通常裁判所、裁判所執行官及び警察は非力だと思われている。

 

高等仲裁裁判所(VAS)のデータでは、仲裁裁判所で審議される訴訟数は2000年から2006年までに2倍以上増加した(53万6千件から109万5千件)が、私達のアンケートでは、企業が平均的に仲裁裁判所に訴えなくなってきている。2000年に45%の私達の回答者が最近2年間に自己の法的権利や権益を守る為に最低一回は仲裁裁判所に訴訟を起こしたと答えたが、2007年にはその様に答えた回答者は36%となった。
この裁判所に関する公式統計とアンケート結果の乖離は、仲裁裁判所で最近数年審議されている訴訟の大部分が債務者(短命会社)に対する税務機関の欠席裁判で占められているためであろう。実際に活動している企業のアンケートにその様な法廷審議は含まれることは無いからである。それと同時に企業からの訴訟数の減少は権利違反の減少に関係しているかもしれない。2000年には約70%の企業・回答者が自社の経済的権利と利権が踏みにじられたと考えていたが、2007年にはその様な会社の割合は50%まで減少した。

 

どれくらいの企業が同様な状況において法廷で自己の権利と利権を守り、また誰と争ったであろうか? 既に述べた通り、私達のアンケートでは全体の訴訟数は減少したが、自分の権利や利権を侵されていると感じている企業は、ますます司法制度を紛争解決の為に用い始めている。2000年にはその様な企業の66%が裁判所に訴訟を起こし、2007年には72%になった。
2007年のアンケートによると、裁判所に訴え出た企業の内、40%の企業は国家との紛争を解決しようとし、82%は提携先とであった。その場合、2000年と比較して国家とのみ法廷闘争した企業の割合が大幅に上昇した(8%から18%)。裁判所で紛争を解決しようとした企業の規模で分けると、明らかに大企業が多い。更に司法保護制度を最も利用しているのは経済団体の参加企業である。

 

それにも関わらず、何故自社の権利や利権が侵されている企業の大部分は法廷に訴えないのか? 殆どの場合、訴えない理由は法廷外での紛争調整が可能な場合であった。調査での大きな変化の内、以下の事には注目に値する。2000年にその2番目上げられていた理由は、判決執行に対する回答者の不信であった(30%)。しかし2007年にはこの理由は5番目まで順位を落とした(12%)。私達の考えでは、法的処置制度の改善を表していると見られる。
両方のアンケートとも、訴訟を行わない企業は営業活動で闇取引の推定が高いほうであったと言及できる。他の企業では闇取引の平均推定値が下がったが、上記のグループでは反対に上昇している(27%から29%)このデータは経営に占める闇取引が高率である為、多くの企業が紛争解決の手段として司法制度を利用できない事を間接的に証明している、と思われる。

 

私達のアンケートにより、仲裁裁判所の客観性・専門性・汚職の無さ・迅速性・アクセシビリティ・判決の際の独立性などに関する色々な面での活動について評価できる。2つのアンケートでの全ての条件に関し、仲裁裁判所は地方公務員や警察より優秀に見える。それと同時に、より正確な評価は、直接裁判所に訴訟を行った企業からなされるであろう。その関連で、マスコミ報道やビジネス同業者の意見を参考にしながら、(アンケートを行う前の過去2年間、裁判所で実際に訴訟を)「原告企業」と裁判所の有効性を評価した他の企業の評価を比べてみた。

 

2000年の訴訟企業による全ての点に関する評価は平均値よりも高かった。それは、実際には2000年に裁判所はマスコミ報道や経済団体の既成概念よりも良く機能していたと想定できる。
2007年には様々な回答者の集団(権利侵害を受けていない会社・権利侵害を受けているが裁判所に訴えていない会社・裁判所で訴訟を起こしている会社)の間での評価の分散が減少した。その場合、6つの内4つの点に関し「原告企業」の評価が悪化した。特に裁判所の迅速性とアクセシビリティに関する件である。6つの調査項目の肯定的評価と否定的評価の合計の平均値を取った「原告企業」グループの総合評価は2007年が+12 で2000年の+19よりも低かった。しかし、この事は裁判所の仕事の質が落ちたと言うよりもビジネスでの要求が高まった結果との可能性がある。

 

それに加えて両方のアンケート結果が示している様に、法的保護の有効性は訴訟相手が誰であるかにもよる。回答者は、国家機関との法廷争議で勝訴する可能性を民間提携企業との訴訟で有利な結果に持ち込む確立より遥かに低いと見ている。「政府国家機関もしくは地方自治政府の機関と経済的衝突が起きた場合に企業は仲裁裁判所の力を借りて自分の利権を守る事ができるか」との質問に、2000年には「できる」もしくは「できるかもしれない」と答えた回答者は39%であったが、民間企業との法廷闘争の場合には76%が肯定的な答えを出した。
2007年の政府の連邦組織と地方組織の権限関係の変化、更に国営企業の地位強化を考慮に入れ、質問を連邦・地方政府との法廷闘争、国営企業との法廷闘争又は民間企業との法廷論争と分け、この件に関しての質問形式を少し変更した。
それにも関わらず、全体的に状況は変わっていない。回答者の意見では、連邦機関との訴訟で自分の利権を守れると思っている確率が最も低く(工業分野で38%、サービス分野で41%)。反対に民間企業に勝訴する割合はとても高いと見ており、その事に関し11%は回答不能で6%の回答者が不信を抱いている。その場合、両方の業種で民間企業のみならず、国営企業でも訴訟に自信のあるのは規模の大きい会社であった。

 

最後に、企業が国家に法廷で勝訴した場合、その裁判所の判決が執行される確立は民間企業が相手の場合よりも遥かに低い。実際、法廷審議自体の状況と比較して、2007年にいくつかの改善が見られた。特に39%の企業は、連邦機関との法廷審議で下された判決の実行を勝ち取れると考えており、地方政府とでは44%にも上った(2000年には国家機関とでは28%だけであった)。

 

分析の結果を見ると、企業の指導者の考えでは過去7年間で法廷と法執行組織は良い方に変わって来ている。これは多くの他の国家機関が肥大化する中で特に目立っている。
肯定的変化の指標は、権利や利権を侵された企業の割合の減少、更に国家からの権利違反を指摘した企業数の減少である(課税立法の変更、国家機関による課徴金・制裁金徴収もしくは国家機関による違法な法令適応)。大幅な進歩があったのは、企業がどの様に判決執行の可能性を評価したかであった。
全体的に、抽象的な質問「2005-2006年の司法改革で地域(共和国)での仲裁裁判所の有効性は向上しましたか、変化無しですか、それとも低下しましたか?」に対する企業の指導者の答えは意味深長である。36%の回答者(回答不能を除く)は仲裁裁判所の有効性向上を認め、4%の回答者のみがそれとは反対の意見を表明した。
加えて、仲裁裁判所の問題として汚職や判決執行の迅速性の低さなどが依然として残っている。2007年のアンケートでは、更に法廷審議の際に未だに残っている国家と民間企業の不公平が確認された。多くの企業回答者は、民間企業との訴訟では自分の利権を法廷で守れると信じているが、国家相手の訴訟では勝訴する確立は非常に低いと見ている。その経済的な帰結の一つは、国家相手の訴訟で勝訴する事を疑っている企業は今後12ヶ月間に巨額の投資を行わない傾向にある、と言うことだ。 


 

バックナンバー

第4回 ロシアの法組織はどのように機能しているか?

第3回 21世紀の発展制度か、それとも過ぎ去った20世紀の産業政策か?

第2回 ロシアの企業は競争力があるのか?

第1回 ロシアの汚職-ビジネス側の視点


photo_yakovlev.jpg

アンドレイ・ヤコブレフ

 

経済学者。モスクワ大学の経済学部で市場経済研究の責任者を務める。1992年、ロモノソフ大学で経済学と統計学で博士号を取得。日本では一橋大学、京都大学の主催するワークショップ会議に多数参加。専攻は、ロシアのコーポレートガバナンス、産業政策と国営企業関係の比較研究。ロシア政府の経済コンサルタントとしても従事。2005~2007年、ロシア製造工業における投資評価と競争力における、世界銀行との共同プロジェクトについて、ロシアチームのリーダーを務める。ロシアマネジメントジャーナル及びHSE 経済ジャーナルの編集委員。2006年以降、ヨーロッパ協会における比較経済研究の重役委員を兼務。Europe-Asia Studies, Post-Communist Economiesなど多くの国際ジャーナルに寄稿。

Feature TOP