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日本の武士道をロシア人は理解できるか?

 

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 2008年5月21日から7月16日までの間、モスクワのクレムリンで、「サムライ・日本の武家の宝物」という展覧会が開催された。
 展示会場は、2ケ所で、ウスペンスキー鐘楼と総主教宮殿で開催された。館長は、初めて宇宙に飛んだガガーリン宇宙飛行士の娘、エレーナ ガガーリナが務めている。
 展示物として、10世紀から20世紀初めまでの、日本の歴史と文化を代表する70点ものコレクションが展示された。これらを提供したのは、東京国立博物館であり、どのようなコレクションをロシアに持ち込むかについて、日本側との交渉は、4年にもわたったという説明がなされた。また、クレムリンの展示会場で日本のものが紹介されたのは、今回がはじめてであり、近くに は大統領の執務する建物もあるところである。

noriko.part2.2.jpg 展覧会は、「世界のロイヤルコレクション」の一環として開催され、ヨーロッパ、および、ロシアの豪華な宝物の金や宝石と同じエリアに、日本の宝物として国宝級の刀、短刀、つば,兜、鎧、鞍、その他の武具や武器などが展示された。日本の宝物をロシア人はどのように理解したか。
「Samurai」はすでに世界的に有名な日本語だが、彼らが単なる武力集団ではなく、詩歌や能などの教養を身につけた文化人である。
noriko.part2.3.jpg 刀などの武器もその本来の役割とは別に、武士の象徴であり、武士の精神を伝えるものだということがどれだけ伝わったのか。非常に興味深い展覧会であった。 入場料は、大人が150ルーブル(約6$)、子供が70ルーブル(約3$)。展覧会のカタログの値段は、900ルーブル(約37$)である。ロシア人は刀が好きなので、カタログは、売れているとのことであった。

 

 ロシアの映画館では、北野武の「監督万歳!」という映画の上映が始まる。この映画は、昨年、ベネツィアの映画祭で(プログラム外)上映された。2008年6月、2年に1度開催されるモスクワ国際映画祭参加作品である。この作品で、北野武は、映画芸術分野での功績に対して名誉賞を受賞、また、全ロ国立映画大学の学生達のためにマスタークラス(特別授業)をもったというようなことが、TVで何回か紹介された。
noriko.part2.4.jpg監督、万歳!」-これは、北野武の第三番目の喜劇映画であり、監督自らの創作、キャリアおよび、日本映画の古典、世界文化におけるステレオタイプ的アジアのイメージをもじった、完全特殊撮影のパロディ映画、と映画館の上に本人の顔を描いた大きな看板と一緒に紹介されている。 ロシアのTV番組で、時どき、日本映画が、紹介されている。最近は続けて、ロシア文化TV番組で、サムライものが放映された。
奇しくも似たような内容の作品が二つ。
noriko.part2.5.jpg主人公は下級武士だが、剣の使い手であるために、家老の命令で、藩に逆らった武士を殺すという内容であった。
 武家社会の枠組みの中で生きる武士にとって、家老の命令は絶対であり、討たざるを得ない相手の精神に共感を覚え、正しいことと信じながらも任務を遂行する、主人公の心の葛藤、社会の不条理が描かれている。
 休みの日の上映であるためか、見てる人も多いようで、次の日の職場では、サムライのモラルについての話で、にぎわった。ロシア人の感想からは刀を振り回すサムライといった表面的な物珍しさに目を奪われ、主人公の狂おしいばかりの心の葛藤が全く伝わっていない印象であった。「ハラキリ」「カミカゼ」「サムライ」など、有名な日本語といえばミリタリックなものが多い。こうしたサムライ映画が果たして武士道を伝えるものでなく、単に際物のアクション映画のように受け取られるのであれば残念でならない。

 

バックナンバー

第3回 世界的な日本食ブームと言われているが

第2回 日本の武士道をロシア人は理解できるか?

第1回 モスクワでの日本関係美術展覧会情報

 


遠藤 紀子(えんどう・のりこ)

 

1966年、全ソ対外文化連絡協会からの招待により、日本青年代表団の一人として初めて訪露。その後、モスクワ大学文学部大学院に在籍、修了。1980年代に開設されたモスクワセゾン駐在事務所初代所長に就任。日ソ文化交流に注力し、その実績はソビエト現代美術展、モスクワコンテンポラリーアート展、ボリショイバレー学校日本支部(ソビエト バレエ インステイツート)開設、リヒテルの生誕84周年記念コンサートなど多数。現在は株式会社SAVVINSKAYA-SEIYO(サービンスカヤ西洋)社長。サービンスカヤ西洋では、ロシア初の100%海外資本(日本資本)によるオフィスビル「Japan House」を手掛けた。


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