

第10回 ロシア新大統領考
リベラルな西欧派と言われたメドベージェフ氏が5月にロシアの大統領になった後、ロシアと紛争状態にあるグルジアの政府関係者と話したことがある。彼はメドベージェフ氏が大統領になったことはグルジアにとって好ましいことだと喜んでいた。シロビキ(軍、治安機関関係者)と関係のない氏なら、強硬な対外政策を遂行することはないだろうと思ったからだ。 中立系のロシア紙も次のように報じている。 今回のロシア支配エリートの振る舞いは次のことを世界に誇示した。つまり、彼らはもはや誰も、何も、恐れていない――それが国内の敵対者であれ国外の敵対者であれ――ということである。そして、国内政治においても国際政治においても、ゲームのルールを自ら定めようとしている、ということである。多くの専門家は、メドベージェフ大統領の登場による「雪解け」は、少なくとも先送りにされたとみている。(『独立新聞』2008.9.2) さて、リベラルな穏健派と言われたメドベージェフ氏とこのグルジアに対する強硬路線の関係をどのように理解すべきか。ある者は、シロビキと結びついたプーチン首相が対外政策においても実権を握っており、メドベージェフ大統領は飾り物にすぎないと結論した。ロシアのインターネットにも次の様な見解がのった。「メドベージェフは蔭の枢機卿たちが命じたことを遂行しただけだ。彼にはいかなる権力もなく、単なる操り人形にすぎない。ここに彼のおかれた状況の悲劇性、また蔭の枢機卿たちの人質になっているロシア人の悲劇性がある。」 私は、この見解に賛成していない。つまり、メドベージェフ政権のグルジアへの強硬姿勢は、メドベージェフ大統領が無力でプーチン首相の影響力が強いためだとは見ていない。この問題について、私はある新聞に次のように書いた。 ロシアの強硬姿勢は、意外に思われるかもしれないが、リベラルと言われているメドベージェフ政権の誕生と関係がある。ロシアでは今年の5月にプーチン大統領に代わって、リベラルな穏健派とみられていたメドベージェフが大統領になった。これはプーチンの指名によるものであるが、欧米諸国もグルジアもこの新大統領を歓迎した。彼はシロビキと呼ばれる軍、治安関係の人間ではなく、したがって欧米やグルジアに対する姿勢も穏健だろうと予想されからだ。筆者は逆説的だが、リベラルとみられているからこそ、かえってメドベージェフは強硬な対外姿勢を示す可能性があると指摘してきた。 ロシア紙にも、この私の見解に多少通じる次のような意見が載っている。 メドベージェフは最も単純な決定を選んだ。これは彼が本当の指導者かどうかという疑問を解消する最もイージーな選択でもある。彼は賢明な行動の代わりに、自らの政治的権威を強化するために、状況をわざと緊張させた。このことによって、彼は時がたてば真の大統領になるということ、また実際にはリベラルでも何でもないということを示した。これは彼が自ら選んだ決定であった。(『独立新聞』2008.9.2) メドベージェフとプーチンが密接な関係を有していることは事実だが、前者を後者の単なる操り人形とみるのは正しくない。グルジアへのロシアの強硬姿勢は、メドベージェフの意思に反して行われたのではない。一見ひ弱な人物が「大国ロシアの指導者」として地位をしっかりと確立しようとすれば、今回の彼の行動は、権力の論理からみるとある意味できわめて合理的だったのである。
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