

第13回 モスクワで聞いた年次教書とオバマ当選ニュース
大統領任期延長はメドベージェフのプーチンへの「お礼」か
ポーランドやチェコのミサイル防衛システム配備への対抗としてのミサイル「イスカンデル」や電波施設のカリーニングラードへの配備、カフカスでは一歩も引かないという強硬姿勢など米国に対する強い姿勢が印象的であった。ただ、西側世界からの孤立は避けようとしており、経済協力などには前向きの姿勢を示している。多くの者が話題にしたのは、憲法を改定して大統領の任期を4年から6年に延長する提案が含まれていたことだ。いつから延長するのかについてメドベージェフは触れていない。私の会った知識人たちの間では、プーチンの大統領復帰に向けてのお膳立てという見方が多数を占めた。つまり、この提案は大統領に指名してもらった「お礼」というわけである。
今回の教書でメドベージェフが最重要課題として強調したのは、腐敗、汚職との闘争である。そのためのいくつかの措置も教書では述べられているが、このロシアの根深い慢性病がメドベージェフ大統領によって改善されると思っている者は皆無であった。このことは、ロシア社会では法秩序が正常に確立していないということでもあり、これからのロシアの最重要課題である経済改革そのものの前途も暗いものにしている。現在のロシアの経済危機は、マネーゲームなどで巨富を築いた富豪を痛撃した。しかし一般国民への影響は、一部解雇が生じているが、市民生活面ではまだ感じられない。専門家たちは、数か月先に生活面への影響が現れると見ている。
日本に対する評価の転換
欧米だけでなくロシアでも、オイルマネーを保有する政府が、西側の金融市場からの借り入れ金返済で窮地に陥っている大銀行や有力企業の救済に乗り出している。銀行が企業に融資できなくなると、ロシア経済全体が破綻するからだ。しかし、生産部門を活性化させるために融資されるはずの政府資金が、実際に生産部門への投資に向けられると誰も信じていない。事実、政府から緊急の融資を受けた銀行は、さっそく外貨購入などに走っている。国内企業への融資は、腐敗、汚職などでリスクが大きすぎるからだ。
D氏とは、最近の国際金融危機とそのロシアや日本への影響について話した。日本に関しては、マネタリスト的投機に狂奔しなかった慎重なわが国の経済界のアプローチが、結果的に金融危機の被害を少なくしたことをD氏は極めて高く評価した。これまでロシアの専門家はみな、日本の経済界はあまりに保守的だと批判していたことを思うと、感慨が深い。野村ホールディングズがリーマン・ブラザーズのアジア、欧州、中近東部門を買収し8000人の社員を引き継いだことは、D氏に強烈な印象を与えたようだ。ロシアの日本経済への評価が高まることは大変結構なことである。
これに対して私は、それはソ連的なアプローチへの復帰を感じさせるし、むしろ国内での競争をなくして生産性を下げる結果にならないかと尋ねた。彼は、産業分野によって異なるが、航空機産業の場合は国外企業との競争となるので、政府主導の統合はやむを得ないのだと述べる。ただ一般論としては、国家の管理が強くなりすぎて市場原理を殺ぐ懸念はあるとして、政府の影響力が強まることはマイナス面が少なくないことを彼は認めた。欧米でも、「金融の神様」と言われたグリーンスパン米FRB議長の権威が失墜し、経済論は「小さな政府」論全盛から「大きな政府」論に傾きつつある。この流れの中で、ロシア国内でも市場派が後退し国家統制派が勢いを得ることをD氏は明らかに懸念していた。
先が読めないオバマ政権への不安
オバマの大統領当選に関しては、それを歓迎する雰囲気ではなかった。モスクワの知人たちとこの件でも意見交換をしたが、マケインが強硬な反ロシア姿勢を打ち出しているのに対して、オバマは明確な対露姿勢は打ち出していない。また、これまで外交経験もない。したがって、強硬姿勢でないから安心というよりも、先が読めないことや経験不足などを不安がる空気の方がむしろ強かった。
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