Feature モスクワ地下鉄散歩

 第1回 上をむいてごらんーマヤコフスカヤ駅

 

ekiphoto01.jpgのサムネール画像

 マヤコフスキーは革命詩人だった。どんな詩を書いたのか、詳しくは知らない。けれど「革命詩人」という言葉にはなにか甘美な響きがありはしないか。その詩人の名を付けた駅が、モスクワ地下鉄2号線にある。モスクワの中心トヴェルスカヤ大通のマヤコフスカヤ駅だ。

 モスクワ滞在中にたびたびこの駅を利用したのは駅から徒歩1分のところにあるレストラン&バーが目的だった。アメリカンなその店は、ハンバーガーやステーキ、ジョッキのビールにバーボンと、まるでテキサスかコロラドのようだったが、通ったその理由は店内に無料で使える無線LANがあったからだ。レストランでパソコンなど無粋きわまりないことだが、楽しそうに盛り上がっているモスクワッ子たちの傍らで、ノートブックとしばしにらめっこをしていた。

 ネットカフェは結構見かけるのだが、自前のパソコンを使える環境はまだまだ少ないモスクワでは貴重な場所だった。

 レストランからの帰り、駅で地下鉄が来るのを待つ間、ふと天井を見上げると、天井にドームがいくつも並んでいた。そのひとつひとつにはモザイクで絵が描かれていた。落下傘で降下してくる若者だったり、若い男女の体操選手が飛翔する場面だったり、戦闘機の編隊だったり。どこか懐かしい思い、なぜか「グリコのおまけ」を思い出した。

 後日調べて判ったことだが、マヤコフスカヤ駅のモザイクは「ソビエトの空の24時間」というテーマで創作されたものだっekiphoto02.jpgた。作者はアレキサンドル・ディネカ。1920年代後半から活躍した、ソビエトを代表する芸術家だ。

  ところで、詩人マヤコフスキーは、じつは今で言うコピーライターだった。ロシア革命後の混乱を経て提唱されたネップ(新経済計画)ではプロパガンダのために多くのポスター、雑誌が創作され、グラフィックデザインという分野が発達した。詩人マヤコフスキーは、画家ロトチェンコと組んで革命国家建設と愛のために多くのポスターを手がけコピーを書きまくった。ロシアアヴァンギャルド全盛の時代だ。

 1928年レーニンが死に、ネップも終わりを告げ、時代はスターリン一色になっていく。マヤコフスキーらの芸術活動は「形式主義」と批判され、社会主義的リアリズムにとってかわられた。

 1930年、詩人は「恋のボートは世間と衝突してこなごな」(『マヤコフスキー選集Ⅲ』「遺稿」飯塚書店より)と書き残して自殺したという。そしてマヤコフスカヤ駅は1938年完成する。

  マヤコフスキーが手がけた「広告芸術」は、時代の先取りだったのか。絶望した詩人の意思は密かに6歳若いディネカに引き継がれたのか。「グリコのおまけ」を連想したのはあながち見当違いのことではないのかもしれない。詩人は最期の詩をこう結んでいる。

ekiphoto03.jpg
「ごらん、世界はなんというしずけさだ。
 夜はいちめんに星の貢物。
 こんな時間に起き上がって語る相手は
 世紀、歴史、そして宇宙。」

 

(現在マヤコフスカヤ駅は入り口が新しくなって、大きなモザイク画があらたに設置されているらしい。)

 

 

 

マヤコフスキー記念館

http://www.museum.ru/Majakovskiy/

 

マヤコフスカヤ駅の昔の写真はここで

防空壕として使われていた時の写真も見ることができる

http://www.metro.ru/stations/zamoskvoretskaya/mayakovskaya/

 

ご家族でどうぞ レストラン「アメリカンバー&グリル」

American Bar&Grill in Moscow

http://ambar.rosinter.ru/

 

「マヤコフスキーは不倫相手との恋に破れ自殺した」という定説を覆
すノンフィクションも出版されている。
『きみの出番だ、同志モーゼル―詩人マヤコフスキー変死の謎』(ワレ
ンチン・スコリャーチン著 草思社)

 

 

バックナンバー

第9回 抱擁そして歴史の両側 / 環状線キエフスカヤ駅
第8回 かつて宮殿が夢見られた場所 / クロポトキンスカヤ駅
第7回 ハヤブサとムカデ / ザモスクヴァレェツカヤ線ソーコル駅
第6回 アエロポルトの謎-アエロポルト駅
第5回 ふたつのベラルースカヤ-ベラルースカヤ駅
第4回 モスクワで一番有名な犬-革命広場駅
第3回 電気工場駅のターニャ-エレクトロザヴォーツカヤ駅
第2回 気分はモスクワっ子-イズマイロフスカヤ駅
第1回 上を向いてごらん-マヤコフスカヤ駅

   


検見崎まこと(けんみさき・まこと)

 

鹿児島県生まれ。写真作家。(株)文藝春秋を経て1991年に独立。映像スタジオStarfish Lab.として、舞台、雑誌、広告などの写真、映像、webコンテンツの製作などを手がける。ロシア、インドシナ、中国、チベットなど各地を取材。ブログ「Traveling Penguin」には、中国やチベットからのレポートが随時アップされている。

オフィシャルサイト:http://www.kemmisaki.com/

ブログ:http://web.mac.com/starfishlab/


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