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第2回 気分はモスクワっ子、ちょっと郊外へ-イズマイロフスカヤ駅
赤の広場近くの「革命広場駅」から地下鉄3号線で北東へ。男女のパルチザンの銅像がホームにそびえているイズマイロフスキー公園駅(パルチザンスカヤ駅に名前が変わったようだ)を過ぎると、おんぼろ電車の窓から眩しい光が飛び込んでくる。地上に出た列車はモスクワ市内で一番広い公園、イズマイロフスキー公園を右手にみながら、イズマイロフスカヤ駅に着く。 5月はモスクワがもっとも輝いている季節。ホームに降り立ち電車が行ってしまうと、新緑が芽吹き、花が咲き誇る公園で、ダンスをする一団、カラオケに興じる老人たち、恋人たちやかつての恋人たちが、散策を楽しんでいるのが見える。 モスクワの物価は高い。長く逗留するとなると、ホテル代は絶望的に高騰する。一計を案じ、モスクワッ子に頼んで、安アパートを借りてみたのは、ちょっとした海外移住のまねごとでもあった。幸い人のいい大家さんに巡り会い、事情を了解の上でモスクワの友人をたてて契約。イズマイロフスカヤ駅から歩いて5分の高層アパートの9階に部屋を借りた。

イズマイロフスカヤ駅の改札を出ると目の前に青空市場がある。モスクワ市内で一番大きな青空市場と言われていたが、その時分(2003年当時)は半分が改装中だった。友人に言わせると市場の人は怖いという。なぜ?南の人が多いから。アゼルバイジャン人とかだから。写真なんかとらない方がいいわよ。 モスクワに滞在し始めた頃、写真を撮影するのはおっかなびっくりだった。治安の問題もあるし、まだまだ軍や警察が幅を利かせている国。青空市場に限らず、ロシア人が「撮らない方がいい」と勧めることが多くて、町中でカメラを構えるのには相当緊張した。地下鉄に及んでは「国家機密で撮影禁止じゃないかな」とまじめに話すロシア人すらいた。だんだん事情がわかってくると、それは彼らロシア人の思考の仕方によるのだ、ということが飲み込めてきた。 あるとき、赤の広場近くで警察官にカメラを向けようとした私を一緒に歩いていたロシア人の友人は、激しく制止した。「警官をみつけたら、私たちは避けて通りますよ。カメラをむけるなんてとんでもないです!」 相手が警官だろうが、市場を取り仕切るマフィアだろうが、気性の激しい移民労働者たちだろうが、モスクワっ子は、知らない人と余計な関わり合いを持って、なにかコトに巻き込まれるのを警戒するのだ。だから、見ず知らずの人にカメラを向けることは、基本的にすべきでないと考えている。じっさい、ご覧のように、地下鉄は撮影禁止でもなんでもなく、警官だって笑顔でカメラに微笑んでくれる(そうでない場合も、もちろんある。警官に被害にあったという話は時々耳にする)。けれども、よけいなことに巻き込まれたくないという心理は、無愛想だがひとなつっこいロシア人のなかにある、生活習慣のようなものかもしれない。
さて、市場をのぞくのは世界中どこでも楽しいことにかわりはなく、買い物すればもっと楽しい。ホテル住まいから開放された私は、撮影から戻るとこのマヤコフスカヤ市場で必ず買い物をして帰った。店は小さな箱のような作りが並んでいて、野菜、肉、魚、化粧品、乳製品、酒、雑貨と専門に分かれている。とくにすばらしいと思ったのは、肉屋さん。ロシアは畜産大国。ハムやソーセージなどの加工品の種類が多く、酒飲みにはもってこい。とくに豚のスネ肉の生ハムは絶品で、日本へ密かに塊ごと持ち帰ったほどだ。モスクワにも近年、スーパーマーケットがいくつも開店しているが、青空市場も対抗して改装したりしているようだ。
短い滞在でもモスクワッ子の気分は十分味わえる。ぜひ地下鉄で郊外へ、そして市場に寄ってハムとワインを買って、森の公園でピクニックはいかが。
----------------------------------- イズマイロフスカヤ駅は、3号線(アルバーツコ・パクロフスカヤ線)でクレムリン近くの革命広場駅から6つ目。一つ手前のイズマイロフスキー公園駅(現在はパルチザンスカヤ駅と名前が変更されている)は蚤の市で有名。
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